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レポート2002
「NBMとEBM」
日経BP社介護情報センター長
広多 勤
ナラティブ・ベイスド・メディスン(Narrative Based Medicine,NBM)と
いう考え方が提唱され,注目されている。「ナラティブ」は「物語り」などと訳される。
NBMは,患者が語る病気の体験の「物語り」から,病の文脈を理解し,患者が抱え
る問題に全人的にアプローチしようとする臨床の手法である。
NBMの提唱者のひとり,ロンドン大学プライマリ・ヘルス・ケア学講座教授のトリ
シャ・グリーンハル氏は,「西洋医学は,疾患の病態を理解し,治療法を理論的に支える
妥当で確実な根拠(エビデンス)を求める努力を重ねてきた。しかし,患者自身の体験を
理解することや,患者と良好なコミュニケーションを保つことにはあまり注目してこな
かった」と指摘し,「臨床病歴は,患者と医師の交流と対話の中から生まれて出てくる」
「物語りの尊重と解読こそが,重要な臨床技術である」と述へている(「ナラティブ・ベイ
スト・メディスン/臨床における物語りと対話」金剛出版)。実は,このグリーンハル氏は,
EBM研究の第一人者であり,その基礎研究と臨床での普及の陣頭に立つ旗頭の一人でもある。
EBM(Evidence Based Medicine)は.言葉としては日本でもすっかりお馴染みに
なったが,まだ誤解も多い。その最たる例が,EBMとは「客観的データに基づいて診
断や治療を行うこと」だという誤解である。EBMにおける「エビデンス」とは,通常は
人間集団におけるリサーチ研究,特にランダム化臨床試験やコホート研究の結果で,リス
クや可能性について十分な証拠力をもつ客観的データを指す。しかし,元来EBMは「最
近最新かつ最良の根拠を良心的に正しく明瞭に用いて,個々の患者のケアについて決定す
ること」(Sackett,1996)と定義され,決して客観主義を主張してはいない。
EBMとは,「真実(データ)」を,個々の患者の個別な病いの体験に対して機械的に適
用するのではなく,あくまでも患者に始まり,患者中心に臨床上の問題を解決していく
手法だということである。それにしても,患者の体験の「物語り(ナラティブ)」はこう
したエビデンスとは対極にあるようにも思える。グリーンハル氏らは,「ナラティブ」は
決してエビデンスを否定するものではなく,根拠や統計 科学性を補い,EBMを補完す
るものだという。患者の経験と医学的記録の橋渡しをするのがナラティブであり,EBM
にもナラティブの解釈は不可欠のプロセスだとしている。同氏らは‥患者の体験と情報を
共有化して,インターネット上で自由に利用できるようにした新しいデータベース,
「DIPEx」の構築を始めた(http:〃www.dipex.org/)。コクラン・ライブラリーなど
のエビデンスのデータベースと併せて利用する,ナラティブのデータベースにしていく計画だ。
NBMの根本は,とにかく眼前の患者の話をよく聴くことにある。臨床における「聴く」ことの
重要性はこれまでも指摘されてきた。日く「患者の生の言葉に耳を傾けよ。患
者が君に診断を告げていろ」。日く「口は一つ,耳は二つ。説明上手である前に,ま
ず聴き上手になれ」。だがグリーンハル氏は「このことは実際の医学教育カリキュラムではほ
とんど認識されていない」と指摘する。患者の語る物語を傾聴し,尊重し,解釈する技術
は,医療における臨床技能の中核だということだ。患者中心の医療もそこから始まる。
日本歯科医師会雑誌vo1.54No.12 2002−3 1173 53
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